末梢性顔面神経麻痺
顔面神経麻痺って何?
intro
顔面神経麻痺は何らかの原因によって、顔面神経が障害された病態の総称のことです。末梢性顔面神経麻痺のうち頻度の高いものにベル麻痺とラムゼイハント症候群があります。
ベル麻痺は単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の再活性化による神経炎が主な原因であり、一般的に予後良好(自然寛解率は約70%)に対し、ラムゼイハント症候群は帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化による神経炎が原因であり、比較的に予後不良(自然寛解率は約30%)です。
顔面神経麻痺が発症したら、出来る限り早く医療機関を受診し、早期診断と治療を開始することが重要です。鍼施術を併用する場合でも必ず医科連携をとることが重要です。
アプローチ方法
考え方Up to Date
末梢性顔面神経麻痺の治療方法や考え方は大幅に変更されてきています。当院では鍼灸、MBF療法(ミラーバイオフィードバック療法)、表情筋ストレッチ、ホットパックなどを用いて病的共同運動の予防と軽減を行っていきます。
施術頻度
鍼灸施術は発症から6ヵ月以内では週2回、重症例(ENoG<10%)では週2回以上を推奨します。その後、症状の回復に伴って施術間隔を伸ばしていきます。
麻痺スコアが正常範囲(病的共同運動なし、麻痺スコア36点以上)まで回復した場合は鍼灸施術の中 止を考えます。
希望者には鍼灸施術以外にも表情筋ストレッチ、MBFセラピー、ホットパックを行います。
鍼灸施術
鍼灸は『鍼や灸で刺激を与え、病気の治癒や予防を目指す中国伝統医療の一つ』です。主な効果として疼痛軽減、血流改善、神経調節及び免疫促進などが期待できます。
末梢性顔面神経麻痺を発症から6ヵ月以上が経過した後遺症がある場合でも効果が証明されています。
粕谷 大智(2017)「顔面神経麻痺患者に対する QOL を指標とした鍼治療の効果-FaCE scaleを用いて-」,『FACIAL NERVE RESEARCH JAPAN』37,pp.153-155
MBFセラピー
MBFセラピーは『鏡を用いることによって表情筋の収縮をフィードバックし、意図した筋肉のみをコントロールする方法』です。継続することによって病的共同運動を抑制することが証明されています。
中村 克彦(2008)「顔面神経麻痺のリハビリテーション」,『耳鼻臨床』101(6),pp.413-421
鍼灸施術
発症から1週間以内
顔面部の主要穴(10穴程度)に対して少量の鍼数を使い、週2回ほど鍼施術を行います(低周波鍼通電は行いません)。鍼施術による神経促通効果、血流改善や筋緊張緩和効果などによって、顔面のこわばり、表情筋の筋力低下、病的共同運動や顔面拘縮などの後遺症予防を行います。
発症から1週間以降
顔面部の主要穴以外にも経筋排刺や透刺を行い、週2回ほど鍼施術を行います(低周波鍼通電は行いません)。鍼施術による神経促通効果、血流改善や筋緊張緩和効果などによって、顔面のこわばり、表情筋の筋力低下、病的共同運動や顔面拘縮などの後遺症予防を行います。
・前頭部 …陽白四透(攅竹、糸竹空、頭維、上星に向けて格子状に刺します)
・下眼瞼部…毛刺(浅刺多鍼を行います)
・頬部 …牽正→迎香、牽正→地倉、牽正→挟承漿の3ラインに経筋排刺を行います
・遠隔取穴…対側の合谷に補法を行います
※代償運動で健側に痛みや引きつりがある場合は、健側にも鍼を刺していきます。
徒手療法(マッサージ)
回復期のアプローチ
顔面神経麻痺の予後予測には、ENoGなどの電気生理学的検査が用いられてます。一般的にENoG≧40%であれば、後遺症が残らないと言われています。逆に言えばENoG<40%であれば、後遺症が残る可能性があるので、しっかりと対策を取ることが必要です。回復期には以下のようなアプローチを行うと後遺症の予防になると言われています。
1)表情筋のマッサージ …毎日10回、1回5分
2)温熱療法(蒸しタオル) …毎日3回、1回10分
3)上眼瞼挙筋による開瞼運動…毎日3セット、1セットは3秒開瞼を10回とする
4)強力な粗大運動を避ける
5)食事や発話の時はできるだけ眼を大きく開ける
6)電気治療(低周波治療器など)は行わない
7)健側のストレッチ
表情筋マッサージ
表情筋のマッサージは国や文献によって少しずつやり方が異なりますが、「指腹でしっかりとした圧をかけながら、小さく、ゆっくり、円形の動き、両側同時で行う」ことが一般的です。図では片側しか書いてませんが、左右同時に行ってください。
1)前頭部とこめかみのマッサージ…5個のうずまき、30秒~1分
2)頬部のマッサージ …3ライン、各ラインに3個のうずまき、2分
3)顎部のマッサージ …3個のうずまき、30秒
4)頸部のマッサージ …5ライン、各ラインに3個のうずまき、2分
※注意点としては、広範囲を同時に行わないこと、リラックスして行うことです。
健側のストレッチ
顔の片側が麻痺しているとき、健側(麻痺していない側)は患側(麻痺している側)を補おうとします。健側は正常時よりも硬くなりますので、健側を毎日ストレッチすることや、健側を使いすぎないようにすることが必要です。
安静時の顔が正中線の位置にあることを確認することが重要です。この意味は上唇と下唇の中央が、鼻先と顎先を結んだ線が真っ直ぐになることです。もし健側に引っ張られているのなら、顔を正常な位置に戻すためにストレッチをする必要があります。鏡を使いながらストレッチをすることが重要です。
1)頬部のストレッチ…4ライン、 各ラインを5回繰り返す
後遺症期以降のアプローチ
後遺症期には以下のようなアプローチを回復期から続けているアプローチに追加していきます。
1)筋緊張に対するストレッチ(患側)…毎日3回、1回10分
2)ミラーフィードバック法 …毎日3回、1回10分
患側のストレッチ
後遺症期に病的共同運動などの後遺症が出現すると、筋肉は緊張して短縮します。ストレッチは筋肉が再び伸張することを助けて、筋肉をさらに正常に機能させるようにします。ストレッチをしているとき、本当の筋肉の硬さはどのくらいなのか、患側(麻痺している側)と健側(麻痺していない側)を常に比較してください。鏡を使いながらストレッチをすることが重要です。筋緊張に対するストレッチは国や文献によって少しずつやり方が異なりますが、「指腹でしっかりとした圧をかけながら、両方の手でしっかりと伸張させる」ことが一般的です。
1)前頭部のストレッチ…1ライン、5回繰り返す
2)眼周囲のストレッチ…3ライン、各ラインを5回繰り返す
3)眼瞼のストレッチ …1ライン、20秒間保持を3回繰り返す
4)鼻周囲のストレッチ…1ライン、5回繰り返す
5)唇周囲のストレッチ…1ライン、20秒間保持を3回繰り返す
6)頸部のストレッチ …5ライン、各ラインを5回繰り返す
7)頬部のストレッチ …4ライン、各ラインを5回繰り返す
8)顎部のストレッチ …3ライン、各ラインを5回繰り返す
9)頬の中のストレッチ…1ライン、20秒間保持を3回繰り返す